村上春樹 「タクシーに乗った男」 独特な浮遊感

回転木馬のデッド・ヒート」に納められている「タクシーに乗った男」という作品を読んだ。
短いながらも1話目の「レーダーホーゼン」と同様に運命的なストーリーが展開されている。

 

回転木馬のデッド・ヒート (講談社文庫)

回転木馬のデッド・ヒート (講談社文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2004/10/15
  • メディア: 文庫
 

 

ここでの語り手は、取材先の画廊の女性オーナーだ。
「タクシーに乗った男」とはある売れない芸術家の書いた絵に描かれていた人物なのだが、そこに運命的なsympathyを感じ、なけなしのお金を出して手に入れることになる。
ここでのsympathyとは、

「二人の人間がある種の哀しみをわかちあうこと」

とのこと。
ちなみに作者はこの絵を見ていないはずなのだが、さも目の前にあるかのごとく描写が
具体的に語られる。

そして語り手がギリシャを旅行した際に、短時間ではあるが「タクシーに乗った男」と
運命的に「出会う」ことになる。
別れ際には以下の言葉をギリシャ語で交わす。

「カロ・タクシージ(よいご旅行を)」
「エフカリスト・ポリ(ありがとう)」

 

そして、この話の教訓は以下の通りだ。

「人は何かを消し去ることはできない - 消え去るのを待つしかない」


レーダーホーゼン」を同じく異国で展開される話に、不思議な余韻を感じる作品だ。