村上春樹 「タクシーに乗った男」 独特な浮遊感
「回転木馬のデッド・ヒート」に納められている「タクシーに乗った男」という作品を読んだ。
短いながらも1話目の「レーダーホーゼン」と同様に運命的なストーリーが展開されている。
ここでの語り手は、取材先の画廊の女性オーナーだ。
「タクシーに乗った男」とはある売れない芸術家の書いた絵に描かれていた人物なのだが、そこに運命的なsympathyを感じ、なけなしのお金を出して手に入れることになる。
ここでのsympathyとは、
「二人の人間がある種の哀しみをわかちあうこと」
とのこと。
ちなみに作者はこの絵を見ていないはずなのだが、さも目の前にあるかのごとく描写が
具体的に語られる。
そして語り手がギリシャを旅行した際に、短時間ではあるが「タクシーに乗った男」と
運命的に「出会う」ことになる。
別れ際には以下の言葉をギリシャ語で交わす。
「カロ・タクシージ(よいご旅行を)」
「エフカリスト・ポリ(ありがとう)」
そして、この話の教訓は以下の通りだ。
「人は何かを消し去ることはできない - 消え去るのを待つしかない」
「レーダーホーゼン」を同じく異国で展開される話に、不思議な余韻を感じる作品だ。